北海道ではエゾシカ猟が盛んに行われています。以前は、射止められたシカは猟場で解体され、被弾部や内臓など獲物の一部がそのまま山野に放置されることがありました。これらに残った鉛ライフル弾の破片などを猛禽類が肉とともに食べることで、重篤な鉛中毒が引き起こされます。鉛中毒に陥った猛禽類は、激しい貧血と神経症状による運動機能の低下が見られ、やがて衰弱し死亡してしまいます。北海道では、1996年に初めてオオワシが鉛中毒と診断され、これまでに200羽近くのオオワシやオジロワシが、鉛中毒で命を落としています。これらの多くは、釣り人や登山者などによって偶然発見され、特別な検査によって鉛中毒と診断された数です。ワシ類の大部分は厳冬期に渡来し、雪深い山中など人目に付きにくい場所で鉛中毒死することが多いため、確認されている被害個体は氷山の一角に過ぎません。
ワシ類の鉛中毒が多発したことを受け、北海道は以下のように段階的に鉛弾を規制しました。
年 度 | 概 要 |
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2000年度 | エゾシカ猟における鉛ライフル弾の使用規制 |
鳥獣保護法に基づく北海道告示 | |
2001年度 | 鉛散弾の使用規制 |
鳥獣保護法に基づく北海道告示 | |
2003年度 | 狩猟によって発生する獲物の放棄の禁止 |
鳥獣保護法 | |
2004年度 | ヒグマ猟を含むすべての大型獣の狩猟における鉛ライフル弾鉛散弾の使用禁止 |
鳥獣保護法に基づく北海道告示 | |
2014年度 | エゾシカ猟時の特定鉛弾所持の禁止 |
北海道条例 |
しかしながら、鉛弾の規制が開始された2000年から2015年春までに、73羽のオオワシと34羽のオジロワシが高濃度の鉛に汚染された生体や死体としてセンターに搬入されています。鉛弾の所持も禁止された2014年度猟期にも、オオワシ2羽とオジロワシ2羽が、道東や札幌・旭川などで鉛中毒に陥って発見されました。さらに鉛弾規制直後に道東で行った調査では、高濃度の鉛に汚染されたクマタカが捕獲され、オオワシやオジロワシだけでなく、クマタカなどにまで被害が広がっていることが明らかになってきました。鉛弾が合法的に使われている本州以南でも、複数のクマタカやイヌワシが高濃度の鉛によって汚染されている実態が明らかになりつつあります。
猛禽類の鉛中毒が依然として発生している現状は、現存する鉛弾規制の遵守が不徹底であり、問題の根本的な解決には至っていないことを証明しています。現存の規制が鉛弾の使用の禁止にとどまり、販売や購入については制限がなされていないこと、また、現行犯以外での取締りが極めて困難であることなどが、この問題を長引かせる大きな要因になっています。私たちは、本州以南のハンターに対して、北海道の大型獣の狩猟(シカ、クマ)で実績のある銅弾への変換を訴えています。しかし、銅弾など無毒弾の普及が思うように進んでいない背景には、銅弾の価格が鉛弾と比較して高価であることや、北海道以外での入手が困難な場合があること、ハンターの鉛中毒に関する知識や意識が不十分であることなどが考えられます。
2013年10月、アメリカのカリフォルニア州で狩猟時に鉛弾の使用を禁止する法案が可決されました。鉛中毒の防止を目的とした鉛弾規制は、今や世界的な流れになりつつあります。鉛中毒問題の解決には、狩猟用鉛弾の全国的な規制と銅弾など無毒弾の理解および普及を広げる取り組みが必要です。