鳥類に大きな影響を及ぼす可能性のある病原体は数多くあります。私たちはその中でも、近隣諸国で発生が確認されており、かつ野鳥および人に重大な影響を及ぼしかねない鳥インフルエンザとウエストナイル熱をモニタリングの必要な重要感染症として注目し、研究に取り組んでいます。
カモなどの野生の水禽は、鳥インフルエンザウイルスを自然に持っていますが、世界中で問題となっている「高病原性鳥インフルエンザ」とは異なります。
鳥インフルエンザは鳥の病気であり、季節性インフルエンザのように容易に人に感染することはありません。また、鳥インフルエンザウイルスは身近にいる野鳥から、あるいは鶏卵や鶏肉を食べて人に感染することもありません。
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鳥インフルエンザは、A型インフルエンザウイルスによって引き起こされるニワトリの疾病です。ニワトリの高致死性急性全身性疾患を高病原性、ニワトリが全く症状を示さない、または軽度の元気消失を示す疾患を低病原性として区別します。
2005年以降、世界中で高病原性鳥インフルエンザによる野鳥の死亡例が報告されています。国内でも、猛禽類の高病原性鳥インフルエンザウイルスの感染例が確認されており、2007年にはクマタカ(Spizaetus nipalensis)で、2011年にはオオタカ(Accipiter gentilis)、ハヤブサ(Falco perefrinus)およびフクロウ(Strix uralensis)からウイルスが分離されています。
A型インフルエンザウイルスはオルソミクソウイルス科に属するエンベロープウイルスです。ウイルスゲノムはマイナス一本鎖RNAの8つの分節から成り、各遺伝子分節は1から3つの蛋白をコードしています。ウイルス粒子表面には、2つの糖蛋白、へマグルチニン(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)が突出しています。インフルエンザAウイルスはHAとNAの抗原性に基づき、H1からH16とN1からN9の亜型に分類されます。高病原性鳥インフルエンザウイルスの亜型はH5およびH7に限られます。
A型インフルエンザウイルスの自然宿主は野生の水禽です。低病原性鳥インフルエンザウイルスはガチョウなどの陸生家禽を経由して、ニワトリへ感染します。ニワトリの間で感染を繰り返すと、高病原性鳥インフルエンザウイルスが選択されることがあります。これが野生の水禽に逆輸入され、これら水禽の渡りによって広範囲(日本含む)に高病原性鳥インフルエンザウイルスが運ばれます。
ウエストナイル熱は、動物由来感染症の一つで、人やウマが罹患すると風邪のような症状を示しますが、まれに脳炎を起こし、死に至る危険性もあります。本ウイルスの伝播に重要な役割を持つのが鳥です。多くの鳥は本ウイルスに感染しても症状を示しません。さらに、長距離の渡りによって広範囲にウイルスを運ぶことが想定されます。
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ウエストナイル熱ウイルスは、フラビウイルス属の蚊媒介性ウイルス群に属し、血清学的に日本脳炎ウイルス群に含まれます。本ウイルスの主要な感染環は、蚊と鳥の間で形成されます。ウイルス増幅動物(病原体を増幅し、他の宿主に供給できる動物)は鳥であり、イエカ(Culex)類が主要な媒介蚊です。本ウイルスは、鳥の渡りに伴って世界的に分布します。多くの種では本ウイルスに感染しても症状を示しませんが、野鳥、特にカラスがウイルスに感染すると高率に死亡することが知られています。ヨーロッパや北米では、野鳥の死亡例が確認されており、猛禽類ではイヌワシ(Aquila chrysparverius)やオオタカ(Accipiter gentilis)、メンフクロウ(Tyto alba)、アメリカワシミミズク(Bubo virginianus)などのウイルス感染が確認されています。日本での感染例は、まだありません。