全身大やけど


 まだ雪が残る4月中旬、根室市の郊外でオジロワシの成鳥が保護されました。意識はあるものの、全身が焼けただれ、起立しているのがやっとの状態。直ちに点滴を入れ、酸素を嗅がせながら診察と治療を開始しました。
目はただれ、クチバシも変色


 まぶたや鼻、クチバシの基部が火傷によって黒く変色し、呼吸すら困難な状態。じっと痛みに耐えているのか、頭がもうろうとしているせいか、オジロワシはほとんど動こうともしません。
足は真っ赤に変色


 足指の何本かは、皮膚が真っ赤に腫れ上がっています。これは電撃斑(電流斑)と呼ばれる皮下出血で、強い電流が身体に流れた際に現れる、感電事故の特徴です。赤みの無い左中指などでは、すでに壊死が進んでおり、体温が全く感じられません。  
苦渋の選択


 猛禽類の生活には鋭い爪のある足指が欠かせません。しかしながら壊死が進む患部を放置しておけば、敗血症などによる合併症を引き起こし、動物の死を早める結果になりかねません。苦渋決断の末、2回の手術を執り行い、数本の指と引き替えになんとか命を取り留めました。
たくましい野生の命


 5月下旬、中型リハビリケージの中で懸命に羽ばたき、野生復帰を目指すオジロワシの姿がありました。
 結果的に全指の半数を失いましたが、力強く飛び回り、器用に止まり木にも着地しています。
  あきらめてたまるか!


 搬入から約2ヶ月、オジロワシを大型フライングケージに移しました。飛翔力は回復したものの、厳しい自然界で餌を捕るための能力をはたして回復することが出来るのか? 大きなハンディキャップを背負ったオジロワシの果敢なチャレンジは、今日も続いています。
 
   
  誇らしく頂に


 毎日毎日、最上段の止まり木を見据え、飛翔に必要な筋力を鍛え上げてきたオジロワシ。今日、とうとう頂上を極めました。
 どこか誇らしげに辺りを見下ろす姿に、そっと拍手を送りました。
 
   
  ハンデを個性に


 多くの指を失ったハンデキャップは、決して軽い物ではありません。野生に帰れるかどうかは、ワシが身体に負った痛手を自ら受け入れ、一つの個性として一生付き合って行けるだけの気迫と技量を、獲得できるか否かにかかっています。