知床の海で溺れたオオワシ


 知床半島の基部に位置する羅臼町で、オオワシの幼鳥が保護されました。港内で溺れているところを観光客に発見され、環境省のレンジャーらによってタモ網ですくい上げられました。両翼の裏側に擦過傷が見られたことから、何度か岸に這い上がろうとしたものの失敗し、低体温症で衰弱したものと思われました。以前、観光を目的とした餌付けによって極めて狭い範囲に大量のワシが群がった結果、ワシ同士が空中衝突して海に落下し、同じような状況で救護されたことがある場所だけに、同じような事例が続発しないかどうか注視する必要があります。
リハビリケージで野生を目指す


 センターでレントゲン検査を実施した結果、烏口骨(うこうこつ)と呼ばれる胸の骨が少しずれていることがわかりました。何か強い衝撃を前方から受けたことを物語っています。過度の運動をさせずに数日間静養させた結果、大型フライングケージ内の低いとまり木にとまれるようになりました。冬の間、同じ環境に生息するオジロワシと同居しながら、徐々に野生の勘を研ぎ澄まして行きます。
力強い羽ばたきが復活


 奥行き40m、高さ12m。野生生物保護センター最大のフライングケージ内を、所狭しと飛び回るオオワシ。力強い羽ばたきと滑空を交え、気持ちはすでに大空へ向かっているようです。入院中の栄養補給で体重も保護された時よりも1キロ近く増え、体力も十分回復した様子。精悍な顔つきから、気持ちの面でも野生に戻る準備は万端なようです。
卒業写真


 最後の身体検査と標識の装着を終え、輸送ケージに入る直前のオオワシ。 足につけたナンバープレートは、放鳥後の動向を知る上での大事な手がかりになります。生まれて約半年、初めての大旅行で危うく命を落としそうになったオオワシの子は、無事に野生に帰る日を迎えました。これからは自分の力だけで生きて行ってくれることを願いつつ、旅立つオオワシの卒業写真を撮りました。
さあ、元の世界へお帰り!


 放鳥地は白銀の世界。結氷した湖の岸に置かれた輸送ケージの扉をそっと開けると、オオワシは勢いよく外に飛び出しました。力強い羽ばたきで、大きなフワッと身体は宙に舞いあがります。100m、200m・・・あっという間に遠ざかっていきます。
再び野鳥に


 傷病鳥が再び野鳥に戻った一瞬です。上空で自分の状況がわかったのか、オオワシは緩やかに飛行経路を変え、仲間のワシ達がとまる湖岸の大木を目指します。一気に500m以上も飛んだオオワシは、大人のワシの横に降り立ち、何事も無かったかのように羽繕いを始めました。ようやくスタッフの顔に安堵の表情が広がります。