築40数年


 サハリン中東部の都市、ポロナイスクにある国立公園事務所。1960年代半ばに建てられた建物は老朽化が進み、外壁の塗装も剥がれていますが、広大なポロナイスク自然保護区の管理や野生動植物に関する様々な調査が行われています。
日本領だった証


 街外れにある巨大な廃墟? かつて、この町が敷香(しすか)と呼ばれていた頃に建てられた旧王子製紙の工場跡です。日本人が去った後も、この場所でずっと歴史の移り変わりを見てきた工場は、私の訪れをどのように受け止めたのか。。。
えっ・・・これで?


 「さあ、オオワシの調査に行きましょう」と用意されたのは、雪上車でも四輪駆動車でもなく、スノーモービルに引かれたソリ。最近新調したというだけあって、板バネのサスペンションや背もたれが付いたデラックスタイプ。ただ・・・床面にクッションが無いのには、少々不安を覚えます。
寒いのではない・・・痛い!


 イザ出発! 搭乗3分で、板張りの床が繰り出すパンチにお尻が悲鳴を上げ、やむなくセーターや寝袋をクッション代わりにしました。完全結氷したポロナイ川を、雪煙を上げながら猛スピードで遡上。防寒帽にダウンウエアと、上から下まで防寒着に身を固めてはいますが、頬が千切れるように痛い!
10年以上の交流


 オオワシ調査のため、初めてサハリンを訪れたのは1999年。その後も毎年この地を訪れ、地元の研究者と交流を深めてきました。ホストとゲストとしてではなく、真の信頼関係が築かれていることが、過酷な調査だからこそ伝わってきます。
オオワシを探せども・・・


 どこまで行っても雪野原。それもそのはず、ポロナイ川は釧路湿原がいくつも入ってしまうほどの広大な湿原地帯を流れているのです。採餌場になりそうな、結氷してない水場を巡り、オオワシの姿を捜します。
ニブヒの方が黙々と


 こんな所に人影が! 先住民族であるニブヒの方々が氷の下に網を仕掛け、氷下魚(こまい)を捕っている姿でした。近くにはスノーモービルもなく、いったいどこから歩いてきたのだろう?と不思議に思ってしまいます。
だんだん口数が少なくなり


 夕方まで氷上を走りまわり、ワシの姿を捜しました。オジロワシは見たことがあると言うものの、地元の研究員ですら越冬するオオワシに関する確実な情報は持ち合わせていません。もしも発見することが出来れば大きな成果になります。
遠くに鳥影が!


 気を取り直し、一気に海岸線まで出てみると、風向きの具合で今日は流氷が接岸していない事がわかりました。そのとき、開いた海面を砂丘から見つめるワシのシルエットが双眼鏡に飛び込んできました! オオワシか!?
惜しい! でも明るい兆し


 はやる気持ちを抑え、そっと近づくと、残念ながらオジロワシでした。北海道ではオオワシと同じものを食べて越冬している近縁種。オオワシが越冬している可能性を示す吉兆です。ただ、調査に残された時間は、わずかに明日の午前中だけ。。。
オジロワシばかり・・・


 調査最終日。ポロナイスクの南部沿岸を調べてみることにしました。朝早くから車を走らせ、段丘状の海岸を調査します。雪と氷に閉ざされた北部地域とは異なり、餌を捕ることが出来る水面が広がっているせいか、所々にオジロワシの姿がありました。
遙か沖合の流氷帯を観察


 この時期、サハリンの沿岸地域はほとんど流氷に覆われます。しかしながら、不思議なことにポロナイスクの周辺では、流氷帯は海岸から約3kmの沖合に広がっているだけ。北海道では流氷上にも多くのワシの姿が見られるため、念のためつぶさに観察してみることにしました。
ケシ粒のような手がかり


 はるか沖合の流氷上、水際にケシ粒のような黒いシルエットがありました。どうやらワシのようですが、双眼鏡や望遠鏡では種まで確認することが出来ません。そこで望遠レンズを使って撮影し、写真鑑定することにしました。(上は撮った写真をパソコンで5倍に拡大したものです)
撮った写真を拡大すると!


 さらに大きく引き延ばしてみると・・・肩が白いワシが何羽かいることがわかりました。紛れもなくオオワシです! パソコンの画面を食い入るように見つめていたロシア人研究者と喜びを分かち合います。厳冬期にサハリン中部でも複数のオオワシが越冬していることを明らかでき、非常に有意義な調査になりました。