学術・文化交流

Academic/Cultural exchange

国内外で講義・実習を実施

猛禽類医学研究所には、毎年多くの研修生が国内外から訪れますが、獣医師や野生生物行政関係者を対象としたJICA(国際協力機構)による研修も行われ、海外からの研修生に野生生物の保護管理などに関する講義や実習を実施しています。

最近では、国内はもとより、海外から研修講師として招かれることが多く(特にアジア、アラブ諸国)、特に隣国については今後の連携体制の構築が大変重要ですので積極的に応えるように心掛けています。なかでも韓国の野生動物救護センターやサハリン動物園の獣医師との交流は15年以上にわたって続いており、現地指導や研修会への招聘などを行っています。また、隣国における高病原性鳥インフルエンザ等の重要感染症の状況把握など、信頼できる専門家とのホットラインを構築するなど、日頃より国際的な情報交流を活発に行っています。

サハリン動物園でのオオワシの手術
サハリン動物園における外科手術の指導
韓国の野生動物救護センターにおける技術講習会

国内外への学術的発信

活動の中で判明した新たな情報や研究結果について、論文発表や学会への参加を通して学術的な報告を行っています。野生生物の直面する問題や脅威に関して学術的なコミュニティで発信を行うことは、社会への問題提起だけでは解決が難しい専門性の高い課題についての認知を促し、情報の整備や解決策の考案、技術革新の必要性を訴える事が可能となります。また、このような情報の共有は、同じ状況にある他の生物種や地域における問題発生の警鐘や類似症例への対応の一助ともなりえます。

獣医学分野の学会に限らず、関連する生態学・環境科学・文化人類学等、幅広く多様な分野の学会に参加し、専門家との意見交換や交流を行っています。研究や解析における技術的な協力体制の構築など、分野横断的なコラボレーションによって各課題に対する多角的なアプローチが実現しています。

<国際誌への投稿論文例>

著者(年)論文タイトル掲載誌出版社・備考
Saito, K., Kurosawa, N., Shimura, R. (2002)Lead poisoning in endangered sea-eagles (Haliaeetus albicilla, H. pelagicus) in eastern Hokkaido through ingestion of shot Sika deer (Cervus nippon).Raptor Biomedicine III, pp.163–166Zoological Education Network, Florida
Saito, K., Kodama, A., Yamaguchi, T., et al. (2009)Avian poxvirus infection in a white-tailed sea eagle (H. albicilla) in Japan.Avian Pathology, 38(6): 485–489
Saito, K., Haridy, M., Abdo, W., Kasem, A. S., Watanabe, Y., Yanai, T. (2019)Poxvirus infection in a Steller’s sea eagle (H. pelagicus).J. Vet. Med. Sci., 81(2): 338–342
Katzner, T. E., Saito, K. et al. (2024)Lead poisoning of raptors: state of the science and cross-discipline mitigation options for a global problem.Biological Reviews, 99: 1672–1699DOI: 10.1111/brv.13087

アイヌ民族との交流

私たちが活動を始めるより前、遠く昔から、野生生物はじめ土地の自然と共に暮らしを営んでいるアイヌ民族の方々と交流を持ち、人間と野生生物との在り方や、保全について意見を交わしています。例えば、シマフクロウはアイヌ語でコタンコㇿカムイ/kotankorkamuyと呼ばれ、「村を司る神(カムイ)・村を護る神」とされてきました。語り継がれているユーカラ(物語・神謡)の中にも登場しており、村を飢餓から救い出すような神聖で崇められる存在として語られる一方、少し間の抜けたキャラクターとして描かれるなど、シマフクロウと隣り合わせで過ごしてきたからこその描写に、村で暮らすアイヌ民族の人々と、村を囲む森に棲むシマフクロウの長い「つきあい」を感じます。

時を経て培われ、体現されてきた自然のダイナミズムを尊重したアイヌの方々の暮らしと、私たちの活動の目標である野生生物との共生について、共通項を見出しながら保全の道を歩んでいきたいと考えています。